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談 話 室

2006/02/10 (金)

研究ノートの余白から bR(出生図における月の生来的吉凶)

 最近、某インド占星術ブログで連載されていた、インド占星術書に関する連続書評を読んで、月の生来的吉凶分類に関する誤訳の可能性というようなテーマについては、やはり東西占星術研究所がコメントすることになるのかなと思い、この記事を書いています。

 惑星の生来的吉凶分類をするならば、月は基本的に生来的吉星に属します。しかし月は、周期的に大きな変化を繰り返す惑星です。

 そのため、生来的吉星として働く月、生来的凶星として働く月、という月の分類をするならば、より精度の高いホロスコープ・リーディングが可能になります。

 ところが、この月に生来的吉凶分類について、英語の誤訳から生じたと思われる吉凶解釈が、一部で定着しているようです。

 それには、『 満ちていく月(チャンドラ)は有益、 欠けていく月(チャンドラ)は有害 』というふうに、月の生来的吉凶分類を記述しているテキストが存在していたのも、その原因の一つとなっているようです。

 この記述の元ネタは、多分英語で
『 Waxing Moon(Chandra) is a benefic. Waning Moon(Chandra) is a malefic. 』
みたいなものだろうと思います。

 確かに英和辞書を引けば、『 wax <月が>満ちる、wane <月が>欠ける、』と書かれているので、Waxing Moon を『満ちていく月』、 Waning Moon を『欠けていく月』と、普通の翻訳家が訳すのは仕方がないことだと思います。

 ところが、この Waxing Moon と Waning Moon という言葉が、インド占星術で使われる場合、ほとんどはインド占星術の専門用語として使われていると思います。

 しだかってインド占星術の専門用語として日本語に翻訳するならば、 Waxing Moon は『満ちている月』、 Waning Moon は『欠けている月』とでも訳すことになるでしょう。

 つまりインド占星術の専門用語としての Waxing Moon は『満月側に近い光の強い月』、 Waning Moon は『新月側に近い光の弱い月』を意味し、欠けていくか満ちていくかを問いません。

 そしてインド占星術で、月の満ちていく欠けていくという『変化の方向性』を語る場合は、ほとんどが満ちていく月を『シュクラ・パクシャ(Sukura- pakusa)』と表現し、欠けいく月は『クリシュナ・パクシャ (Krsna-paksa)』と表現しているのではないでしょうか。

 インド占星術における一般的な吉凶定義では、『満月側に近い、光の強い月は生来的吉星』であり、『新月側にかなり近い、光の弱い月は生来的凶星』というふうに定義されていると思います。

 そして『 満ちていく月(チャンドラ)は有益、欠けていく月(チャンドラ)は有害 』という定義がされてるいる英語のインド占星術の本は、専門用語を一般用語(または西洋占星術用語)として誤読をしない限りは、存在しないのではないでしょうか。

 もちろん、『満ちていく月、欠けていく月』という月の分類法は、インド占星術でもムフルタ(西洋占星術のエレクショナル)や医療占星術において、その吉凶に重要な役割を果たしています。

 しかし、出生のホロスコープにおける月の基本的な吉凶分類という場面においては、満ちていく月や欠けていく月ではなく、月の光の強弱が生来的吉凶を判定する基本となります。

 まあ実占的な付け加えをするならば、生来的凶星とコンジャンクションしたり、アスペクトを受けたりしていなければ、月は積極的な生来的凶星としての作用はかなり弱めとは言えます。

 この月の異なった二つの相と、その生来的吉凶分類の関係については、中級者でも正確に理解することは、なかなかに難しいようです。

 その辺のことが、いろいろとインド占星術の個人指導をしていく中で分かってきたため、ある時期に東西占星術研究所の初級講座テキストでは、9枚の図版を使って、約3ページの懇切丁寧な解説に改訂増補をしています。

 こういった占星技法に関するミスは、著者や翻訳者と共に、監修者や責任編集者のインド占星術における技量も問われるのに、月に関係したインド占星術の技法には、これ以外にも強烈に誤訳を誘うようなものが、いくつか存在しているのです。

 月に関するインド占星術の技法は、西洋占星術に比較して複雑怪奇で、技法の細かい定義や意味を正確に理解するのが大変です。

 しかも、インド占星術家によって異なる説が主張されている場合も多く、自分の読んでいる英語のテキストと技法が異なるからといって、それをすぐに間違っていると断定出来ないのです。

 信頼性の高い複数のテキストの記述を比較し、さらに実際にその技法を検証して、違和感を感じないことを確認して、初めて確信を持って『この技法が多分正しい。』と主張出来るものだと思います。

 東西占星術研究所でも私の監修下になってから、東西占星術研究所のHPや販売しているテキストの中に見つけた不適切と思われる記述に関して、英語のテキストを比較し、実際に検証し、その結果として削除したり改訂したりする、という作業に追われていた時期がありました。

 したがって『 満ちていく月(チャンドラ)は有益、 欠けていく月(チャンドラ)は有害 』という某テキストの記述も、初版から五年ほど経った今では、おそらく改訂などされているのではないかと思いますが・・・。

 しかし、このテキストはけっこう出回っているようなので、それをまだ使っている方がおられるならば、この記事も月の生来的吉凶判断に関して有益な情報をもたらしてくれるでしょう。

 また英語のテキストでインド占星術を学ばれている方にとっては、独習だけでインド占星術を学習する際の問題点や、翻訳の際に一般用語と専門用語を的確に訳し分ける重要性などについて参考になったのではないかと思います。

 英語の本で占星術の勉強をする時は、インド占星術に限らず西洋占星術でも、翻訳の際に一般用語と占星術の専門用語を的確に訳し分けることが重要です。

 しかし、インド占星術はインド英語の特殊な用法とか、インド宗教や文化に関する知識を背景とした記述などの、一段高いハードルが存在しています。

 日本でインド占星術関係の出版状況がプアなのは、こういった事情が関係しているのかもしれませんね。

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