2003.03.19

クシャトリヤのコンビネーション


桃井 「岩田先生、クシャトリヤのヨーガっていうのがあるんですか?」

岩田 「それは、ラオ氏の弟子の一人が発表した研究が、日本語に翻訳されてホームページにアップされているやつだね。この記事は、けっこう読んでいる人が多いみたいで、最近クシャトリヤのコンビネーションについて質問されることがときどきある。

 ラグナとその支配星に、火星と土星のコンビネーションが関係するとクシャトリヤ、つまり武人階級のパーソナリティーを表しているというのが記事の内容で、非常に単純なコンビネーションだから憶えやすい。でも、その記事はクシャトリアのコンビネーションの意味合いがわかりにくい内容になっているから、自分や知人のチャートにそのコンビネーションがあるとその具体的意味を質問したくなるらしいね。」

桃井 「岩田先生は、このコンビネーションをどう思いますか?」

岩田 「火星・土星のコンビネーションをインド占星術の古典では、闘争を好み、雄弁で、武器の扱いに熟達する惑星配置として扱っている。実際、この惑星配置には武術・格闘技系に興味を持つ人が多いという印象がある。それから意欲的な起業家にも見られる惑星配置だね。

 火星には戦士や司令官、土星には大衆への統治と支配という象意がある。そして武人階級が領土を支配し大衆を統治して、その上に宗教的権威をもって祭司階級が君臨するというのが、カースト制度の構造だ。
 したがってクシャトリヤのコンビネーションというネーミングは、火星・土星のコンビネーションのキャッチ・フレーズとして面白いし、なかなかうまい表現だと思うよ。」

桃井 「火星・土星のコンビネーションって、二大生来的凶星のコンビネーションですけど、そんなに悪くないんですか?」

岩田 「悪くリーディングしようと思えば、いくらでも悪くリーディング出来る惑星配置だけと、否定的なリーディングは誰でも出来ることだから、わざわざ話す必要もないんじゃないかな。クシャトリアのコンビネーションが実際にどんな意味を持つかは、個々のホロスコープにおける火星や土星の吉凶や強さ、ハウス支配などを検討しないと確定は出来ない。

 一般的解釈では否定的な惑星配置から、どれだけ肯定的な面を読み取ることが出来るかが、プロフェッショナルな占星術師としての真価を問われるポイントだと思うよ。」

桃井 「それから記事の中に掲載されていたJ.F.ケネディの出生図を見て思ったんですけど、火星の4番目のアスペクトと土星の10番目のアスペクトという、二つの一方的アスペクトが組合わさると、火星と土星が相互アスペクトする、完全なヨーガを形成するコンビネーションになるんですね。」

岩田 「その応用法則は、火星から4番目のハウスに在住する土星は、火星と相互アスペクトの関係になるというふうに記憶すると使いやすい。この特殊な相互アスペクトの深い意味合いについては、4月のステップ・アップ講座でも解説するから、後で収録したビデオをみるといいよ。」

桃井 「はい。楽しみにしています。」

岩田 「それから、この記事をざっと拾い読んだ時は、長い割には表題以上の深い考察がないなという印象だったけど、記事の最後に特大の活字を使って Your caste is in your genes, say scientists という表題を掲げ、カースト制度による階級間の優劣は遺伝子の違いによって決定されているという話題を引用しているのに気付いてショックを受けた。

 これを見ると、ナチス・ドイツが劣等民族のユダヤ人を抹殺しようとした時と同じような「科学的」証明が、インドではまだ堂々と肯定されているだね。血脈の原理による被差別階級の存在という問題は人類に普遍的に存在する問題だけど、こんな所でそれに出会うと不意打ちをくらったみたいなもので、やっぱりショックだった。」

桃井 「記事自体の内容は、科学的に正しいんですか?」

岩田 「そうだね、それについて正確に認識してもらうのは、かなり本格的な説明をしないと不可能だから、桃井君がわかりやすい比喩で説明しよう。

 土星が9室に入っていると古典では、反宗教的、不運と貧困、他の人に有害な存在、などの解釈をする。そしてラーマクリシュナ・パラマハンサの出生図の9室には、土星が入っている。この二つは真実の発言だ。
 でも、これからラーマクリシュナ・パラマハンサは、反宗教的で有害な人物だとリーディングで主張したら、桃井君はその占星術家をどう思う。」

桃井 「そういう人とは、お話しをしたくありませんね。それじゃあ、その記事の「科学的」証明もそんなふうな内容なんですね。」

岩田 「現代インドのカースト制度が持つ、陰惨な深い闇の部分についてのレポートを読んでいたから、もしかしたら読み方に偏見があるのかもしれないけど、私はその記事をそういう風にしか読めなかった。

 戦後のアメリカや毛沢東の中国が、地上に現実した理想国家ではなかったように、インドも決して国全体が、理想の聖なる楽園ではないという当たり前の事実は、インド占星術、アーユルヴェーダ、インド聖者のアシュラム、という接点でしかインドと接触しない人々にとっては、たとえ実際にインドに何度か行っているとしても知ることのない領域かもしれないね。」