2003.12.24

クリスマス・イブの謎?

岩田 「今日はクリスマス・イブだから、それに関した話題を取り上げてみよう。桃井君は何で12月24日のクリスマス・イブがクリスマスの25日より重要だと思う?」

桃井 「そう言われると、前夜祭のクリスマス・イブがクリスマスより重要だという理由は、何故だか判りませんね。」

岩田 「思った通りの回答をしてくれて、話を続けるのがやりやすくなったけど、クリスマス・イブはクリスマスの前夜祭じゃないんだね。」

桃井 「えっ、じゃあクリスマス・イブって何なんですか?」

岩田 「その前にクリスマスとは何かについて少し話そうか。
 ほとんどの日本人は、クリスマスをキリスト教徒がイエス・キリストの誕生日を祝う日だと思っているけど、カルヴァン主義に基づく清教徒革命を行なったクロムウェルが、支配権を確立した後にクリスマスを祝うことを禁止したように、クリスマスは冬至の前後を祝う古代ローマの祭りが起源になっている。
 それをキリスト教が乗っ取る形で成立した祝祭日がクリスマスで、クリスマスがイエスの生誕日という歴史的根拠は皆無なんだ。」

桃井 「えっ、そうなんですか・・・・。
じゃあ、イエス・キリストは山羊座生まれというわけではないんですね。」

岩田 「桃井君、2000年前に生まれた有名人の12星座生まれに関しては、12月25日生まれという日付がどの暦法によって規定されているのかを確認して、長い年月で移動していく春分点の位置を確認するまでは、単純に12月25日生まれだから出生図の太陽が山羊座と考えるのは問題があるね。」

桃井 「あっ、確かにそうですね。」

岩田 「聖書の記述から推測すれば、イエスの生誕は春から初夏くらいになると言われているし、3世紀はじめのアレキサンドリアの教父クレメンスは5月20日頃と推定していたそうだから、原理主義的なキリスト教徒から『クリスマスは異教徒の風習だから、異教徒の日本人がクリスマスを祝うのは構わないが、キリスト教徒はクリスマスを祝うべきではない。』という主張が出ても不思議ではないんだね。」

桃井 「それは『キリスト教徒でもない日本人が、クリスマスを祝うのは変だ。』というもっともらしい意見を正反対にひっくり返すことになる、意外なお話ですね。」

岩田 「話をクリスマス・イブに戻すけど、クリスマス・イブはクリスマスの前夜祭ではないと言ったのは、ユダヤの伝統から見ればということだ。古いユダヤの習慣では1日の定義を日没から次の日没までとしているから、12月24日の日没と共に12月25日になるわけで、したがってクリスマス・イブは前夜祭ではないということになる。

 したがってクリスマス・イブを祝うという風習は、サトウルヌスの収穫祭やミトラス教といった古代ローマで栄えた宗教の祭りが起源で、聖ニコラスをオランダ式にスペリングして英語読みしたサンタクロースが、ニューヨークからヨーロッパに逆流して定着し、それに古いユダヤの暦法まで関係しているという、一筋縄ではいかない祝祭日ということになるんだね。」

桃井 「サンタクロースって、ニューヨーク生まれなんですか?」

岩田 「4世紀頃に存在した聖ニコラスという大変恵み深い聖人が、オランダ人によってアメリカ大陸の植民地に、守護聖人として持ちこまれたのがニュー・アムステルダムで、ニュー・アムステルダムは後に英国植民地のニュー・ヨークに変わったため、セント・ニコラスが英語読みのサンタクロースになったんだ。

 それがヨーロッパに逆輸入されて、最初は徒歩だったのが、やがてトナカイに乗っていくという変化のプロセスは、宗教学や社会人類学の興味深い題材だろうね。」

桃井 「今日は、占星術と関係無い話題になりましたけど、クリスマス・イブってなかなかインターナショナルな歴史を秘めているんですね。」

岩田 「まあ、直接的には関係無いかもしれないけど、1日の始まりの定義が各宗教によって異なることを知っていないと、間違った判断をしてしまうという身近な実例という意味では、占星術とも関係が深い話題だとおもう。
 たとえば、古いユダヤの習慣では1日の定義を日没から次の日没までとしているのとは対照的に、インドの習慣では1日の定義を日の出から次の日の出までとしていることは、インド占星術をやる場合は知っておいたほうがいいね。」

桃井 「元旦の初日の出を祝う日本は、インドと同じように1日の始まりは日の出からなんでしょうね。」

岩田 「私も日の出が1日の始まりという方がピンとくるから、日没を1日の始まりとする古いユダヤの習慣は印象に残ったんだ。

 ついでにもう少し専門的な話をすると、インド占星術には新月から次の新月までを30等分するティティという概念があるんだけど、このティティは一朔望月である約29.53日を30等分するから、ティティの始まりは日の出とずれるんだ。
 それを日の出から次の日の出という1日の定義に当てはめるから、1から30までの間に欠けるティティが出て来るという奇妙な現象がおこるんだ。

 ティティは吉日選定には大変重要な要素なので、この辺の知識を知っているとインド占星術の専門書を読む時、理解しやすくなるんじゃないかな。」

桃井 「吉日選定をするムフルタの技法は、今のところ英語で勉強するしかないですから、インドの暦に関する基本的な知識がないと、正しい意味をとるのが大変ですね。」

岩田 「もう少し身近なテーマとしては、インド占星術の開運処方で、木曜日に断食しなさいとか、イエロー・サファイアを着けなさいというアドバイスがあったとして、木曜日の夜明前はインド占星術的に見て木曜日なのかという問題がある。

 これに正しく答えるには、曜日の始まりがどこに設定されているかという暦法に関する知識が必要だから、1日の始まりはどこかという問題には、けっこう多くの占星術テーマが関係するだね。」