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談 話 室

2006/03/06 (月)

研究ノートの余白からbS(月の吉凶に関する補足)

 前回の記事に関して、インド占星術関連サイトで反論の記事がアップされていることを、茶羅加さんが教えてくれました。

 その内容を読むと反論のポイントが外れていることと、出生のホロスコープで月の生来的吉凶を判断する技法の優先度が、こちらの考えと異なるので、内容は若干専門的になりますが、補足説明をします。

前回の談話室で書いた、


もちろん、『満ちていく月、欠けていく月』という月の分類法は、インド占星術でもムフルタ(西洋占星術のエレクショナル)や医療占星術において、その吉凶に重要な役割を果たしています。

 しかし、出生のホロスコープにおける月の基本的な吉凶分類という場面においては、満ちていく月や欠けていく月ではなく、月の光の強弱が生来的吉凶を判定する基本となります。


という記述を読めば、『月の吉凶には、月の光の強さと、月の満ち欠けの2要素が存在する。』ということ、『出生のホロスコープにおける月の生来的吉凶は、月の光の強さを基本とする。(しかし満ち欠けを無視するわけではない)』ということを述べているのは、明らかなはずです。

 それに対して、『月の満ち欠けと、月の光の強さと、どちらが生来的吉凶を決める方法として、正しいんですか?』という質問は、適切な回答を生じさせません。

 この記述に対する適切な質問は、『出生のホロスコープで、月の生来的吉凶を判定する基本的条件とその他諸条件は、なんでしょうか?』というものになるはずです。

 出生のホロスコープ(ネイタル・チャート)における、生来的吉凶(ハウス支配や在住ハウスに依存しない吉凶分類)の検討は、

1.
月の光の強さが強く、配置が良く生来的吉星の影響を受けていると、月は生来的吉星として十分な力を持つ。

2.
月の光の強さが弱く、配置が悪く生来的凶星の影響を受けていると、月は生来的吉星として十分な力が無く、生来的凶星の性質を帯びる。

という月の生来的吉凶判断を、もっとも基本の技法として検討するという立場を、東西占星術研究所では採用しています。

 もちろん月の満ち欠けという相も、より総合的で詳細な吉凶検討には使いますが、それでも月の満ち欠けより吉凶判断に優先する場合もある占星術技法が、いくつかあると考えています。

 その理由は、羽田先生が常にインド占星術のスタンダードとされていた、『 Astrogy,Destiny and the Wheel of time (K.N.Rao) 』に、


General Categorisation
Natural Benefics : Jupiter and Venus are natural benefics.
Natural Malefics : Saturn, Mars and Sun are natural malefics.

Four Conditional Benefics
The Moon, if not weak (not very near the Sun); Mercury, if not afflicted;・・・・
直訳→月、もし弱くない(太陽にとても近くない);水星、もし傷ついてない;....
Four Conditional Malefics
The Moon is weak and afflicted; if Mercury is Weak and afflicted;・・・・・
☆(ここでの Benefics は吉星、Malefics は凶星を意味する。)


とあり、月の生来的吉凶を判断する条件の説明に、月の満ちる相や欠ける相を使っていません。

 そして、これらのラオ氏が記述しているインド占星術技法を、実占において検証し、その実占における具体的な使用ノウハウを確立していくことから、東西占星術研究所のインド占星術の研究が始まっているからです。

また、J.N.バーシン氏も、


Natural Benefics and Malefics
Moon is tearted as a benefic provided it is within 72 degrees from Sun in distance.
要約→太陽から72度より離れていれば、月は生来的吉星。


と、月の生来的吉凶を判断する条件の説明に、月の満ちる相や欠ける相を使っていませんし、太陽からの距離という月の光の強さで、月の生来的吉凶を定義しています。

 そして、出生のホロスコープにおける月の生来的吉星に関しては、東西占星術研究所が採用している上記の1.2.の定義が、実占の場で十分に良く作用していることを確認しています。

 そして東西占星術研究所が、インド占星術の医療分野における占星技法のスタンダートとして尊重している、Dr.K.S.チャラク氏は、


In case of a night birth coinciding with the waxing phase(Shukla-Paksha) of the Moon, and day birth coinciding with the waning phase(Krishna-Paksha) of the Moon, the adverse placement of the Moon gets completely cancelled.


と述べています。

 ここでは、『(もし昼生まれなら、)欠けていく月の生まれによって、月の悪い惑星配置が完全にキャンセルされる。』と述べられています。

 したがってインド占星術の占星技法では、単純に『満ちていく月は吉星で、欠けていく月は凶星。』という扱いは出来ないようになっています。

 念のために言っておくと、Dr.K.S.チャラク氏は、waxing waning に phase という単語を付加し、『waxing phase =Shukla-Paksha 』を『満ちていく相の月』、『waning phase =Krishna-Paksha 』を『欠けていく相の月』という意味で使用しています。

 またホロスコープ・リーディングの実例を見ても、光の強い欠けていく月を生来的吉星として扱っています。

 これはインド占星術において、単純に waxing や waning と記述する場合と、waxing phase や waning phase と記述する場合では、異なることを意味します。

 また、Z.アンサリ氏のように、

As regards Moon he is treated as waxing from the 8th day of bright half(Shukla Paksha) to the 7th day of dark half(Krishna Paksha) and from the 8th day of dark half to the 7th day of bright half Moon is a waning Moon.

というように、欄外にインド占星術独自の言葉遣いを定義した上で、

When Moon is waxing, it becomes a natural benefic and when it is waning it becomes a malefic.

と、『満月側の月は生来的吉星になり、新月側の月は凶星になる。』と、西洋占星術とは異なる用語定義を使って、月の生来的吉凶を述べるインド占星術家も存在します。

 アンサリ氏もまた、惑星の生来的吉凶の説明において、月の生来的吉凶を判断する条件として、月の満ちる相や欠ける相を使っていません。

 インド占星術には多くの古典が存在し、そこでは多くの聖者方が諸説が展開されていますので、東西占星術研究所の占星術用語を扱う言葉遣いに難のあるという立場も存在すると思います。

 しかしながら、Z.アンサリ氏、Dr.K.S.チャラク氏、J.N.バーシン氏、K.N.ラオ氏は、東西占星術研究所が現代の実占家としての実力を認めているインド占星術家です。

 また西洋では、リチャード・フック氏もインド占星術家の実占家としての実力を認めていますが、ジェームズ・ブラハ氏に関しては、クリアーな西洋占星術的センスで、判りやすいインド占星術入門書を書ける、素晴らしい占星術ライターという評価です。

 しかし、ブラハ氏の使用しているインド占星術の技法に関しては、ムーラトリコーナの度数を始めとして、東西占星術研究所と意見の異なる部分が存在しています。

 したがって東西占星術研究所では、英語に翻訳されたインド占星術の古典からの抜粋集を背景とした某サイトや、ジェームズ・ブラハ氏の見解よりも、これらインド占星術生え抜きの実占家と同じ見解に達していることを、ここに明示したいと思います。

 ここまで書いて、前回誤訳と指摘した『満ちていく月は有益、欠けていく月は有害。』という記述は、ジェームズ・ブラハ氏の見解を採用している可能性もあることに気が付きました。ブラハ氏は、


出生時において月が満ちていっているのか、欠けていっているのかを識別することは非常に重要です。なぜなら、欠けていく月は凶とみなされ、満ちていく月は吉とみなされるからです。


という見解を採用しているそうです。

 その場合は、『満ちていく月は有益、欠けていく月は有害。』という記述が適切であるとは思いませんが、それは東西占星術研究所と異なった見解なのであって、誤訳であるとは言えません。

 したがって、もしそうであるなら前回の記事を訂正すべきであると思っています。いかがなものなのでしょうか?

 レスポンスがありしだい、訂正・削除等の適切な対応をしたいと思っています。

 最後に、まとめるならば、

◇☆
 東西占星術研究所が高く評価している、インド占星術生え抜きの実占家は、出生の月に関する生来的吉凶判断には、月の光の強さを基本としている。

 したがってインド占星術で、生来的な月の吉凶の記述で waxing phase of the Moon ではなく、waxing Moon と記述されている場合に Natural Benefic と記述されていたら、この waxing Moon は、天文学や西洋占星術の用法と異なり、『満ちている月』と訳さないと、正しい技法を指示できないのではないか。(アンサリ氏の使用例のように)

 またインド占星術では、欠けていく月が、強力な保護作用を持つ場合もあるので、月の満ち欠けと月の吉凶は完全に一致しない。

 (もちろんインド占星術において、満ちていく月は吉、欠けていく月は凶という吉凶判断をする場合は大変多いのですが、出生のホロスコープでの生来的吉凶判断に使用する場合、より優先する判断基準が、月の光の強さを含めて幾つかあるということです。)
◇☆

という見解であることを、確認として付記しておきます。

2006/02/10 (金)

研究ノートの余白から bR(出生図における月の生来的吉凶)

 最近、某インド占星術ブログで連載されていた、インド占星術書に関する連続書評を読んで、月の生来的吉凶分類に関する誤訳の可能性というようなテーマについては、やはり東西占星術研究所がコメントすることになるのかなと思い、この記事を書いています。

 惑星の生来的吉凶分類をするならば、月は基本的に生来的吉星に属します。しかし月は、周期的に大きな変化を繰り返す惑星です。

 そのため、生来的吉星として働く月、生来的凶星として働く月、という月の分類をするならば、より精度の高いホロスコープ・リーディングが可能になります。

 ところが、この月に生来的吉凶分類について、英語の誤訳から生じたと思われる吉凶解釈が、一部で定着しているようです。

 それには、『 満ちていく月(チャンドラ)は有益、 欠けていく月(チャンドラ)は有害 』というふうに、月の生来的吉凶分類を記述しているテキストが存在していたのも、その原因の一つとなっているようです。

 この記述の元ネタは、多分英語で
『 Waxing Moon(Chandra) is a benefic. Waning Moon(Chandra) is a malefic. 』
みたいなものだろうと思います。

 確かに英和辞書を引けば、『 wax <月が>満ちる、wane <月が>欠ける、』と書かれているので、Waxing Moon を『満ちていく月』、 Waning Moon を『欠けていく月』と、普通の翻訳家が訳すのは仕方がないことだと思います。

 ところが、この Waxing Moon と Waning Moon という言葉が、インド占星術で使われる場合、ほとんどはインド占星術の専門用語として使われていると思います。

 しだかってインド占星術の専門用語として日本語に翻訳するならば、 Waxing Moon は『満ちている月』、 Waning Moon は『欠けている月』とでも訳すことになるでしょう。

 つまりインド占星術の専門用語としての Waxing Moon は『満月側に近い光の強い月』、 Waning Moon は『新月側に近い光の弱い月』を意味し、欠けていくか満ちていくかを問いません。

 そしてインド占星術で、月の満ちていく欠けていくという『変化の方向性』を語る場合は、ほとんどが満ちていく月を『シュクラ・パクシャ(Sukura- pakusa)』と表現し、欠けいく月は『クリシュナ・パクシャ (Krsna-paksa)』と表現しているのではないでしょうか。

 インド占星術における一般的な吉凶定義では、『満月側に近い、光の強い月は生来的吉星』であり、『新月側にかなり近い、光の弱い月は生来的凶星』というふうに定義されていると思います。

 そして『 満ちていく月(チャンドラ)は有益、欠けていく月(チャンドラ)は有害 』という定義がされてるいる英語のインド占星術の本は、専門用語を一般用語(または西洋占星術用語)として誤読をしない限りは、存在しないのではないでしょうか。

 もちろん、『満ちていく月、欠けていく月』という月の分類法は、インド占星術でもムフルタ(西洋占星術のエレクショナル)や医療占星術において、その吉凶に重要な役割を果たしています。

 しかし、出生のホロスコープにおける月の基本的な吉凶分類という場面においては、満ちていく月や欠けていく月ではなく、月の光の強弱が生来的吉凶を判定する基本となります。

 まあ実占的な付け加えをするならば、生来的凶星とコンジャンクションしたり、アスペクトを受けたりしていなければ、月は積極的な生来的凶星としての作用はかなり弱めとは言えます。

 この月の異なった二つの相と、その生来的吉凶分類の関係については、中級者でも正確に理解することは、なかなかに難しいようです。

 その辺のことが、いろいろとインド占星術の個人指導をしていく中で分かってきたため、ある時期に東西占星術研究所の初級講座テキストでは、9枚の図版を使って、約3ページの懇切丁寧な解説に改訂増補をしています。

 こういった占星技法に関するミスは、著者や翻訳者と共に、監修者や責任編集者のインド占星術における技量も問われるのに、月に関係したインド占星術の技法には、これ以外にも強烈に誤訳を誘うようなものが、いくつか存在しているのです。

 月に関するインド占星術の技法は、西洋占星術に比較して複雑怪奇で、技法の細かい定義や意味を正確に理解するのが大変です。

 しかも、インド占星術家によって異なる説が主張されている場合も多く、自分の読んでいる英語のテキストと技法が異なるからといって、それをすぐに間違っていると断定出来ないのです。

 信頼性の高い複数のテキストの記述を比較し、さらに実際にその技法を検証して、違和感を感じないことを確認して、初めて確信を持って『この技法が多分正しい。』と主張出来るものだと思います。

 東西占星術研究所でも私の監修下になってから、東西占星術研究所のHPや販売しているテキストの中に見つけた不適切と思われる記述に関して、英語のテキストを比較し、実際に検証し、その結果として削除したり改訂したりする、という作業に追われていた時期がありました。

 したがって『 満ちていく月(チャンドラ)は有益、 欠けていく月(チャンドラ)は有害 』という某テキストの記述も、初版から五年ほど経った今では、おそらく改訂などされているのではないかと思いますが・・・。

 しかし、このテキストはけっこう出回っているようなので、それをまだ使っている方がおられるならば、この記事も月の生来的吉凶判断に関して有益な情報をもたらしてくれるでしょう。

 また英語のテキストでインド占星術を学ばれている方にとっては、独習だけでインド占星術を学習する際の問題点や、翻訳の際に一般用語と専門用語を的確に訳し分ける重要性などについて参考になったのではないかと思います。

 英語の本で占星術の勉強をする時は、インド占星術に限らず西洋占星術でも、翻訳の際に一般用語と占星術の専門用語を的確に訳し分けることが重要です。

 しかし、インド占星術はインド英語の特殊な用法とか、インド宗教や文化に関する知識を背景とした記述などの、一段高いハードルが存在しています。

 日本でインド占星術関係の出版状況がプアなのは、こういった事情が関係しているのかもしれませんね。

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